部下からのパワハラ?

query_builder 2024/06/10
労務相談QA
ある管理職から、「部下が自分に報告・連絡・相談もせずに勝手に行動し、注意しても従わないどころか舌打ちする等の反抗的な態度を取るため、精神的に苦痛を感じている。これは部下からの“逆パワハラ”ではないか」と相談がありました。
部下から上司へのパワハラは成立するのでしょうか?


部下から上司への言動であっても、パワハラに該当するケースはあります。
パワハラの定義を確認して行きましょう。


1.パワーハラスメントの定義
労働施策総合推進法および指針において、以下の3つの要素を全て満たすものが職場における「パワーハラスメント」と定義されています。
優越的な関係を背景とした言動であって
業務上必要かつ相当な範囲を超たものにより
労働者の就業環境が害されるもの
それぞれを詳しく見ていきましょう。

① 優越的な関係を背景とした言動
パワーハラスメントは職場でのパワー(地位・優位性)を利用して行われます。つまり、「断れば処分対 象になる」「評価が下がってしまう」等、言動を受ける社員が、行為者に対して抵抗・拒絶することがで きない関係を背景として行われるのです。代表的なものが、「職務上の地位が上位の者(上司)から 下位の者(部下)への言動」です。
しかし、部下が上司に対して行う言動であっても、上司が部下に対して抵抗・拒絶することができない 状況や事情があれば、「優越的な関係」が認められてパワーハラスメントに該当する可能性があります。
例えば、部下が集団で上司を無視して職場内で孤立させる場合や、部下が業務上必要な知識や豊 富な経験を有しており、協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難である場合です。
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
社会通念に照らし、明らかに業務上必要性がないものや、ふさわしくないものです。例えば、業務上明らかに必要性のない言動、業務の目的を大きく逸脱した言動、業務を遂行するための手段として不適当な言動、当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動等です。
指導は業務上必要です。間違った行動や職場のルールに違反する行動を取った社員に対しては、注意し行動を改めさせることも必要です。しかし、そのような行動があった場合でも、人格を否定するような言動や仕事とは関係のないところで相手を誹謗中傷することはパワーハラスメントに該当し得ます。
③労働者の就業環境が害されるもの
当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。例えば、恐怖により出社出来なくなったり心身に不調をきたすなど、本来の能力が発揮出来なくなっている状況です。



2.パワーハラスメントの6類型
厚生労働省は、職場におけるパワーハラスメントの代表的な言動を以下の6つに分類しています。
代表的な言動の6つの類型 該当すると考えられる例
1 身体的な攻撃
(暴行・傷害)
●殴打、足蹴りを行う。
●相手に物を投げつける。
2 精神的な攻撃
(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
●人格を否定するような言動を行う。 相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む。
●業務の遂行に関する必要以上、長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う。
3 人間関係からの切り離し
(隔離・仲間外し・無視)
●1人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる。
4過大な要求
(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
●新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する。
5過小な要求
(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
●管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる。
●気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない。
6個の侵害
(私的なことに過度に立ち入ること)
●労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する。
※上記はあくまでも代表的な言動の類型であり、6類型に当てはまらない言動であってもパワーハラスメントと認定されるケースはあります。



今回のご相談について
今回のご相談は、「指示に従わず反抗的な態度を取る部下の言動は、逆パワハラではないか」というものでした。部下から上司への言動ですので、1で見てきた3つの要素のうち、「① 優越的な関係を背景とした言動」であるか否かが大きなポイントとなります。既述の通り、部下から上司への言動であっても、部下が上司よりも優位な立場にあり圧力を加えることが可能な場合はパワハラとなり得ますが、ただ上司の指示に従わない、反抗的な態度を取るという言動だけでは、「優越的な関係」の要件を満たせずパワハラに該当しないのが通常です。上司と部下の関係性を調査しましょう。
また、パワハラに該当しないと判断された場合も、この様な部下の態度を放置する事は適切ではありません。部下がこの様な態度を取るのは何故なのか、上司はどの様な指示を部下に与えているのか、上司と部下のコミュニケーションは取れているのか等、双方との面談を実施して問題の根本を把握する事が必要です。その上で部下に対して注意・指導、改善を促すことを繰り返し、それでも改善されないならば「業務命令違反」等の就業規則の規定に基づく処分を検討しましょう。


顧問先様からハラスメントに関するご相談を頂き、お話をお聴きする機会があります。お聴きしていると、職場のルールや業務の進め方が周知されていなかったり、適切な報連相が行われていなかったり、上司が部下の話を聴く機会を設けていなかったり、職場のコミュニケーションが不足していたりと、ハラスメントの訴えの背景に様々な問題があるケースが多いです。ハラスメントに関する正しい知識を持ち判断する事も重要ですが、その背景にある問題点を改善し、そもそもハラスメントが起こらない職場づくりに取り組んで行く事が最も大切です。


ハラスメントに関するお悩み、職場環境・風土の改善に関するお悩み事がございましたら、 是非弊社コンサルタントへご相談下さい。

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