60時間超の時間外労働に対する割増率の引上げ

query_builder 2023/02/10
寺子屋
「1か月60時間を超える時間外労働の割増賃金(残業手当)について、その割増率が今年4月から50%になる」という労働基準法の改定が、今年4月から中小企業にも適用されることになります。今回は、具体的な改正内容と実務上の注意いただくポイントなどについてご説明いたします。 
<具体的な改正内容>
1か月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が50%になります。50%の割増率を適用するのは、法定時間外労働が60時間を超える時間に対してとなっており、もちろん60時間を超えた場合、時間外労働時間の全部に対して適用するわけではありません。 (そもそもこの割増率の引上げは、長時間労働を抑制するためのものですので、長時間労働の多い会社では、長時間労働をさせないよう継続的な取り組みをこれまで以上に求められると言えます。)

1.具体的なカウントの方法
それぞれの会社で定めている時間外労働の1か月の集計期間により集計し、その1か月間で60時間を超えた時間外労働に対して適用します。 基本的には、各月の賃金計算期間になるものと考えますが、もし賃金計算期間と時間外労働の集計期間が違っているようでしたら、どちらを基準に集計するのかを明確にしなければなりません。 集計期間の初日から時間外労働の時間数をカウントして、60時間を超えた時間数に対して50%の割増率を適用します。具体的には以下のとおりです。
上記のカレンダーでは、23日で60時間となり、翌日の24日からの時間外労働から50%の割増率が適用されることになります。ただし、実際には1日の途中で60時間に達することもあり、そのような場合でも60時間を超えたところから割増率が変わります。(以下のとおり、法定休日労働の時間数は、60時間のカウントには含めません。)

2.時間外労働に含まれる時間
「1か月60時間」に含まれる時間は、時間外労働の時間です。週1日の法定休日労働の時間数は含まれませんが、法定外休日労働の時間数は含まれますので、ご注意ください。 就業規則で、法定休日を定めていない場合に、法定休日労働の割増率と法定外休日労働の割増率を分けて規定されている会社では、休日労働を、「法定休日労働」と「法定外休日労働」で分けて把握されていると考えられますので、概ね問題はないと思われますが、「法定休日労働」と「法定外休日労働」の割増率を同じ割増率で規定されていて、特にこれまで法定休日労働と法定外休日労働を区分して把握されていない会社様は、「法定休日労働の時間数」と「法定外休日労働の時間数」を分けて把握する必要がありますので、十分にご注意ください。 これは、結構大変なことになるかもしれませんので、そのような場合は、就業規則で法定休日を定めるということもお考えいただいてもいいかもしれません。また、法定休日労働を含めて60時間を超える時間外労働をする方がわずかである場合は、法定休日労働と法定外休日労働の時間数を分けて把握する手間を省くために、法定休日労働を含めて60時間を超える場合に、50%の割増率を適用するという方法もあります。

3.深夜労働の取扱い
50%の割増率が適用されても、深夜労働の割増率については当然これまでと同様に適用されます。上記の算出例のカレンダーで、24日以降の時間外労働が22時以降の深夜に行われた場合、その時間に対してはさらに深夜労働の25%の割増率が適用され、75%の割増率になります。

4.代替休暇
これまでご説明してきましたとおり、60時間を超える時間外労働に対する割増率の引上げにより、該当する時間の割増賃金が増加してしまいますが、これに代えて有給の休暇を与えるということもできることになっていて、これが「代替休暇」というものです。 これは、60時間を超える時間外労働について、これまでどおりの割増率による割増賃金を支払い、引上げ分の割増賃金を支払わない代わりに、これを時間に換算して有給の休暇を付与するものです。 この制度は少々込み入っており、この紙面で詳しくご説明することは困難ですので、ご興味のある場合は、担当のコンサルタントにお問合せいただきたいと存じます。しかし、代替休暇には以下のような制限がありますので、ご注意ください。


代替休暇は、「1日」または「半日」で取得しなければならないことになっていますので、引き上げ分を時間に換算した場合に「1日」または「半日」に足りない場合は、時間単位の有給休暇を併せて取得するか、時間単位の有給休暇の制度がない場合は、特別の有給休暇を時間単位で付与することになります。
代替休暇は、そもそも長い時間労働を行った労働者に休息の機会を与えることを目的としていますので、代替休暇を付与できる期間は、60時間を超える時間外労働を行った期間の最終日の翌日から2か月以内に限られています。この期間内に取得できなかった場合は、代替休暇として与える予定であった割増賃金を支払う必要があります。
代替休暇を取得できるのは、労働者から取得の希望があった場合で、会社から指示することはできません。


このように、代替休暇制度は制度が複雑であり、さまざまな制限もあるため現実問題として運用は難しいものと考えられますので、この制度の導入に当たっては慎重にお考えいただいた方がいいと考えております。

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