マネジメントに大切なこと

query_builder 2024/11/08
寺子屋
若い頃、私は「教師は自分で直接何かを変えるわけではなく人に教えるだけではないか・・・」と、今にしてみれば大変愚かな考え方を持っていました。社会人になってその大きな過ちに気付き、その後様々な経験をしながら、いつの間にか還暦を迎えました。その間、お世話になった先生方とお一人、またおひとりとお別れし、今ご存命でおられる方は数えるほどになってしまいました。最近は、「教える」というと大変僭越ではありますが、自分も若い方々にわずかながらでもプラスの影響を与えることができるように務めて過ごしています。
以前、日本の会社のマネジメントの弱さについて書きましたので、今日は具体化します。 日米で国籍・業種・規模などの異なるいろいろな会社(最近はスタートアップを含め、主に100人以下の中小規模の会社)で社長・役員・その下で働く様々な階層・年代の方々と接しながら、マネジメントにおいて普遍的に大切だと思うこと(特に日本企業のマネジャーに欠けていると思われること)を、改めてまとめておきます。よく言われていることばかりだとは思いますが、これらは自分自身の大いなる反省や、関与した国内外の大小様々な組織の観察に基づいたものだとお考えください。沢山の「私が未だにできていないこと」を含めて「理想論」を書いていること、ご容赦ください。そしてなるべく簡潔なメッセージにするため、粗削りで言葉足らずの面もあると思いますが、お含みおきください。 ご質問等がございましたらいつでもご連絡ください。



1.マネジャーは全てできないといけない
いきなり大層なことを書きましたが、これは20年ほど前、自分のマネジメント経験がまだ乏しい頃、ある本で目にした言葉です。そのときには「そんなことできるわけはない!」と思ったものですが、これはマネジャーにあるべき責任と覚悟です。「マネジ」という言葉が「(いろいろ調整しながらも)何とか辻褄を合わせてやりぬく」という意味であることからも、自らが行うことを含め、組織や人・スケジュール・予算等を主体的に調整しながらやり遂げる責任を負っているのがマネジャーです。全て自分でやることには、自分で手を動かすことに限らず、人を雇ったり部下をアサインしたり外部委託したりした上で、チェック修正して期限内に完成させることを含めたものです。やるにせよやらないにせよ、やれるにせよやれないにせよ、責任は最終的にマネジャーが負うのです。
そして資本主義の究極のマネジャーは社長です。その社長が企業のオーナーと重なっている場合もありますし、株主から付託された取締役会で選任された、オーナーとは別のトップである場合もあります。
資本一辺倒の考え方は私は決して好きではないのですが、資本の論理における組織の役割と厳しさは、一定程度他の組織にも当てはまるので、組織人として認識しておく必要があります。会社(特に株式会社)の社員はこの厳しさを念頭におくべきと思いますし、そう考えておくと決して損はないです。
これを認識していないマネジャーが日本には多いように思います。
大企業は人材が豊富なので(単に人数が多いという意味です(笑))、自分の部下(担当者レベル)の中に一人ぐらい、自発的に役割を飛び出して、マネジャーの気概を持ってその立場で広範囲に目を配りながら仕事を自ら引き受けリードしながら進める人材も出て来ますが、人材不足の中小企業ではマネジメントの善し悪しが企業の発展に直結しますので、現在成功しておられる中小企業の社長は、例外なく極めて優れたマネジャーだったはずです。なお、マネジャーとリーダーは似ており重なる部分が多いと思いますが、本稿は「マネジメント」についてのものなので主に「マネジャー」を想定して書きます。そのままでは意図に沿わない部分には「リーダー」という言葉も用います。
2.マネジャーは人をマネジするのではなく、業務をマネジすると考えるべき
日本では一般的にマネジャーというと組織及び所属メンバーをマネジするものと考えられやすいですが、私は本来、業務をマネジするものだと考えています。大きな方針・方向性に沿ってやるべきことを網羅的に洗い出し、それを整理して優先順位とともに部下にアサインするのがマネジャー。ですから、自分一人で業務を責任を持って遂行すべき時には業務全体のマネジメントが必要であり、部下がいなくてもマネジャーです。部下がいるマネジャーの場合(これがほとんどですが)、業務を遂行する手段が部下だったり与えられた経費予算だったり、自分や会社の人脈だったりするだけの話です。
「マネジャーは業務をマネジする」と申し上げた一方で、業務を遂行するには「人」が大切であり、マネジャーは「業務を通じて」部下をマネジすることも必要になります。この手段が人事評価システム、そして報酬システムです。
そういう意味で誰をマネジャーにアサインしたかで、業務成果は全く異なって来ます。それ程までに、人材を採用し、適切に配置し、活用することが重要だという意味で、まさに「経営は人」だと思います。
3.方針・方向性(ビジョン)を明確に打ち出すことが重要
「方向性(ビジョン)」の大きさは、マネジャーの与えられた立場によっても異なり、「立ち位置」という言葉で表現する方も多いと思いますが、自分が何をどのような方向性で実現したいのかを持たないマネジャーは周りに流され、よほど優秀な部下や関係者がいない限り成功しません。
自分の経験で恐縮ですが、10年ほど前、ある組織であまり慣れぬ業務のマネジャーに就いて約1か月、ある大きな課題を始めるミーティングで、部下の一人から「石原さんはどうしたいんですか?」といきなり問われたことを思い出します。その時は「むむ、いきなり?」とは思いましたが、すぐに、これは極めて重要な質問だったと思うようになりました。
部下としては、上司が具体的に何を目指し、何をしたいのかが曖昧なのが最も困ります。だからマネジャー(特にリーダー)は何をやりたいのかを、やらないことも含めて明確に打ち出さないとダメです。「どう思う?」と聞いてみてもいいですが、その前に自分の意見を持たないのはいけません。
松任谷由実ではないですが「欲しいものは欲しいと言った方が勝ち(魔法のクスリ)」です。 (・・・言うだけでは勝てないという苦い経験もありますが(笑))
4.実務レベルでは、戦略そのものよりも準備・実行が重要
経営に戦略が不要というわけではないですが、一時期(バブル崩壊直後ぐらいまで)の日本の大企業(自由化の遅れを最大限利用した結果、経営の意識改革の遅れた金融機関など)で、調査や計画・戦略立案に時間をかけすぎるケースをさんざん目にしました。「勉強する」ことを否定する気は毛頭ありませんが、変化のスピードが急速に早くなった現在においては、スピードの重要性が飛躍的に大きなものになっていると思います。それを無視して高度成長時代のモードでやっていると完全に取り残されます。
かつて私の仕えたあるグローバル金融機関の経営者の言葉ですが、「戦略は10%、実行は90%」ということです。調査して考え何もしないよりも「やる前提で具体的に動き出す」ということの重要性を身にしみて感じました。
5.実行のための手順を考え「解像度・粒度」高い準備計画を作る
どんな仕事もプロセスの設計から始めるのが重要です。このプロセスは、極力実務的なアクションに即したものであるべきで、「いつ誰が何をどのように」行うのかを極力明確にすることが大切です。プロセス設計の解像度・粒度が高ければ高いほど実現に必要なことが目に見えますし、実行局面での振り返りも容易になります。そしてマネジャーは、各々実務的なアクションを行う部下たちをサポートしチェック改善するための余裕も持たないといけません。
6.そしてスピードは「完璧な実行」に勝る
そもそも、「完璧な実行」などありえないと考えるべきで、「あるべき姿」さえも時とともに変化すべきと思います。そういう意味では「大きな方向性」と「そのための実行手順」を決めたらどんどん進めるべきです。そして進めているうちにも環境は変わりますので、常に実行手順・プロセスは見直し、修正されるべきです。大変古い話で恐縮ですが、シェルがオイルショックの時に用いた「シナリオ・プランニング」の手法では、シナリオ通りにいかぬときにこそその効果が発揮された、ということを学んだ記憶があります。ここで言う「シナリオ」は詳細実行手順よりは上位の概念だとは思いますが、粒度の高い実行手順の策定と、絶え間ない振り返りが重要だと思います。そしてどこまでの軌道修正を図るかはマネジャーの判断次第で、マネジャーの示した方向性がクリアーであれば、個々の部下は自分の判断でいとも簡単に機敏に「軌道修正」をしてくれるに違いありません。
スピードが大事なので、試行錯誤してモックアップを作りながら修正して改善させていくような進め方です。うまくいかぬと判断したらやめればいい。そして機動的に動き小さな失敗を重ね、反省しながら大きな成功を勝ち取る。反省しないと軌道修正や改善は望めません。
7.優先順位及び時間の使い方が重要
企業規模に関わらず、やるべきことの「項目数」には企業規模ほどの大きな差はありません。非上場企業は取引先情報を除けばインサイダー情報などを気にする必要はありませんし、経理部門も通常はIFRSなどを学ぶ必要はありません。一方、情報セキュリティ・IT・コンプライアンス・労働法制・人事・経理決算等の大半においては、必要となる「精緻さ」や、取引量・社員数等に比例する「作業量」の差はあるものの、項目数そのものに大きな差はないです。したがって必然的に規模の小さな中小企業の方が対応能力に劣ることになりますので、一定程度専門家に外注した上で、自らやる部分に優先順位を付け、取捨選択することになります。これもマネジャーに求められる能力の一つです。
8.組織・役割を考え、部下へ適切に任せる
任された業務範囲が大きいとき(だいたいは「部下の数が多いとき」とも言えます)、業務の優先順位を付け、切り分けて、実行できるスタッフに任せます。そのとき、任せることを明確にし、社内関係者に広く宣言して仕事をやりやすく交通整理します。
任せるとき・指示するときには明確に行う必要があります。失敗しても自分が責任者なのだから、任せっぱなしにせず、成功するようにフォローは欠かせません。
報告等の「指示や依頼」をするときにはその目的・その後に続くアクションがわかるようにし、結果に対するフィードバックを欠かさないことも重要です。
以上の習得には、ある程度経験も必須であり、例えば大企業などで「なんとなく」管理職になった経験の浅いマネジャーなどには、容易ではないです(自分も管理職になり立てはそうでした)。
9.判断にはその背景や理由も含めて可能な限り明確に示す
理由まで含めて部下が腹落ちして納得すれば迷いが生じにくいですし、細部の様々な局面で部下自身が判断を誤りにくくなります。ただしこれを効果的に実現するためには、事前に組織として「大きな考え方の共有」が必要です。
10.方針を決めたらコロコロと変えない
ブレるリーダーは信頼を失います。多少であれば「違ったかな?」と思う程度では、大きな方針はむやみには変えるべきでないです。「違ったかな?」という感覚が正しくないこともあり、慌てるあまり再変更につながると部下は右往左往し混乱します。もちろん、環境の変化を敏感に捉え、やり方の誤りを認めたら、方向を迅速に変えることも重要ですが、その場合であっても、そのよりどころとなる「自分の信念」には揺らぎが生じていないはずです。
11.部下をほめることを含め、フィードバックを必ず行う
指示・依頼のしっぱなしは信頼を損ねます。
自分の業務範囲が大きければ大きいほど、必然的に任せる部分も増えますが、任せる場合には、最終的なゴール(目的)や期限、注意すべき要点などを含めてきちんと伝える必要があります。その上で報告を待つのではなく、定期的に自らチェックすることが必須です。任せっぱなしや「聞いてなかった」はマネジャーにはあってはなりません。そして結果については自分で確認し、問題を感じたら早めに指摘して是正することが必要です。部下が自ら是正できないときには、最後は自分で是正して実現します。
12.部下や周囲へのメッセージは、効果を考慮し、「立場」を踏まえて伝える
中途半端な(責任や権限のない)社員からの指示は効果が薄れます。責任を負う立場で真摯に取り組む上司からのメッセージが効果的です。以前仕えていた世界有数の金融機関のCEOを思い出します。このユダヤ系アメリカ人経営者は比較的小柄ではありましたが眼光鋭く主張が論理的・明確であり、メッセージも明快で迫力・説得力がありました。私が直接対話する機会を持ったのは日本での1時間弱だけでしたが、相手の心の奥まで射貫くようなその鋭い眼光と明確なメッセージは、その後のビデオメッセージなども含めて世界中のマネジャーや投資家などに大きなインパクトを与え続けています。
13.会社や自分の情報を社内オープンすることを惜しまない
良い情報も悪い情報も、差し支えない限り、オープンにした方が周囲は動きやすくなります(もちろん、上場会社等で資本市場に影響を生ずる情報などには注意が必要)。自分の行動スケジュール情報も然りです。
14.任せることのできるものと任せることのできないものがある
マネジャーの仕事には任せることのできるものと任せることのできないものがあります。
それを判断して切り分けることが大切です。 
<決して任せることができない事項>
・会社方針
・大きな決断の伝達
・重要な指示
・人事評価など
15.ボトムアップ組織は例外であり、決して期待するものではない
「トップダウン、ボトムアップどちらがいいか?」という議論がありますが、私は議論しても意味がないと思っています。誰がどのようにやろうとやるまいと、最終的な責任は自分です。仮に部下に極めて優秀なメンバーがいて、広い視野を持ってマネジャー(自分)の立場で正確無比にやってくれるとすれば自分は左うちわで「大いに楽」なのは事実ですが、それは求めるものではない僥倖、いわば「棚ぼた」と考えるべきです。「部下は自分で考えず自発的にやってくれない」と嘆くマネジャーの多くはビジョンや方向性をきちんと伝達できていなかったり、自ら「解像度・粒度」の高い具体的準備を行う能力(これはリーダーシップの一部とも言えます)に欠けています。自らリーダーシップを持たずにボトムアップばかりを期待するマネジャーには、私はクエスチョンマークを付けます。もちろん、比較的最近話題になった「ティール組織」は私の目指す一つの理想的な形ではありますが、それは、一定レベル以上のメンバーがムラなく集まった組織において、トップマネジメントの明確なメッセージとリーダーシップ、そして自ら「解像度・粒度」の高い具体的準備を行う姿勢と習慣を組織内にあまねく浸透させた後に、「結果的に」達成されるものだと考えています。優れたリーダーの元に極めて質の高い人材が大きなモチベーションとともに集まったスタートアップなどで実現でき、メンバーがいわば、ほとんど常時「フロー(flow)」状態で働いているケースがあるように思います。
 
16.日本の中小企業の未来
現在私が主に関わっている中小企業は、全体として日本においては企業数では99.7%、従業員数では7割、GDPの4分の1であり、社長の平均年齢は23年間で22歳上昇した(!)とされており(2023年版中小企業白書等)、生産性の低さが強調されています。 中小企業生き残りのための戦略としては、
が謳われており、この4つのいずれも、今回の「マネジメント」に密接に関わる課題と言えます。 「全体としての中小企業」について評論家的に話しても政治家など以外に全く意味はなく、個別の企業ごとにどうやって改善改革を進めるかが重要だと考えています。そのキーが「マネジメント」だというわけです。
17.おわりに
「いつも思っていることを一度まとめておきたい」と思っていましたが、予想外に長文になってしまいました。 私自身ができることは微々たることですが、自分の関与する組織や会社の経営陣・人事部門の責任者の皆様、そして身近で一緒に働く特に若い方々に対して、変化を好み、チャレンジしてスピード感を持って新しいものを作り出していくことの重要性と喜びをお伝えし、一緒に進んでいきたいと考えています。
★最後に、最近目にした言葉をシェアします。
「吸収力に優れた人は、あらゆる場面を自己変革に用いる」
(富士フィルムホールディングス元CEO古森重隆氏)

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