解雇と退職勧奨

query_builder 2024/05/10
寺子屋
労使や社員間のトラブル、ハラスメント、問題行動、能力不足、経営上の理由など、止むを得ず雇用関係を解消しなければならない場面はどうしても生じてしまいます。このようなご相談の際はよく『この場合解雇できるか?』とお問い合わせを頂きますが、その前段階として退職勧奨をご案内することがあります。雇用関係を解消するときが最も裁判などの大きな紛争に発展しやすい場面です。今回は、解雇と退職勧奨の違いを理解し、なるべく円満な退職に着地させる方法を見ていきましょう。


1.解雇とは
解雇とは、“労働者の同意なく”会社側からの一方的な通知により雇用契約を終了させることをいいます。労働者の同意を必要としないため、書面も『通知書』を用いることになります。会社側から一方的に雇用契約を終了させる強力な権利の行使ですので、労働者の生活を保護するために「解雇予告義務(いわゆる30日前までに解雇を伝える義務)」や「解雇制限」等の様々な規制が設けられています。解雇は大きく分けて普通解雇と懲戒解雇があります。

●普通解雇とは
悪意あっての結果ではないが、やむを得ない事由により行われる解雇です。
(例)病気や怪我による労務不能、能力不足、経営不振による人員整理など
●懲戒解雇とは
社員の規律違反を理由として、ペナルティの意図を含んで行われる解雇です。
(例)無断欠勤や職場放棄、業務命令違反、ハラスメント、横領など
懲戒解雇の中でも、刑法などに触れる重大な行為の場合は、労働基準監督署の認定を受けることにより、即時解雇とすることも可能です。(この認定を『解雇予告除外認定』といいます。)


2.退職勧奨とは
退職勧奨とは、会社が退職してほしいと考えている社員に対して退職を勧めることをいいます。あくまで社員に退職について同意してもらい退職する方法ですから、対立せずに雇用契約を終える手法といえます。


3.解雇と退職勧奨の違い
退職勧奨は、話し合いによって社員に退職してもらうことを目指すのに対し、解雇は会社が一方的に雇用契約を終了させるという点で大きく異なります。退職勧奨もやり方を間違えると『退職強要』と主張されるリスクはありますが、基本的には合意の上で退職するため、後々社員と揉める可能性は低いといえます。
これに対し、解雇の場合には『不当解雇である』として争われるリスクが必ず残ります。
そのため、余程の事情がない限りは、まずは退職勧奨を行い、十分な話し合いを経ても退職の合意に至らない場合の最終手段として解雇を行使する流れを基本とする方が望ましいです。

解雇 退職勧奨
雇用契約の終了方法 会社が一方的に雇用契約を終了させる 会社と社員が話し合い、 合意の上で雇用契約を終了させる
失業保険との関係 原則、会社都合扱い。社員の責任が大きい場合は自己都合扱い 会社都合扱い
訴訟リスク 基本的に大きい適正な進め方であれば小さい
書式解雇通知書、懲戒処分通知書退職届、退職の覚書


4.法律上の制約
解雇の場合は、先述のように会社側から一方的に雇用契約を終了させる強力な権利の行使ですので、労働者の生活を保護するために「解雇予告義務」や「解雇制限」等の規制や、解雇する理由についても「客観的合理性・社会通念上の相当性(解雇に値する理由があるか)」が求められます。一方、退職勧奨の場合はあくまで合意の上でのことですので、法律上の制約はありませんので、30日前までに労働者に予告するルールも適用されません。もっとも、執拗な退職勧奨は「退職強要」として不法行為となるため注意が必要です。


5.退職強要
退職勧奨を具体的に行うときは、社員の退職を促す『交渉』が主ですが、これに応じるか否かは社員の自由な意思に委ねられるべきものです。よって、以下に掲げる方法で社員に不当な心理的プレッシャーを与えたり、社員の名誉や人格を不当に害するような発言をすることは、退職を強要されたとして社員から訴訟を起こされる可能性がありますので注意しましょう。

●退職させる目的で仕事を大幅に減らすこと
●社員が退職しない意思を明確に示しているにもかかわらず、何度も退職勧奨の面談を行うこと
●長時間にわたり退職勧奨を行うこと
●大人数で退職勧奨を迫ること
なお後々、社員から不当な言いがかりをつけられた場合に備え、違法な退職勧奨を行っていないことを証明できるように、交渉時の音声記録を取っておくと良いです。


6.交渉の進め方
退職勧奨は、会社と社員の交渉事です。なるべく双方にとって、円満かつスムーズに合意に至ることが望ましいです。そこで、社員にできるだけ納得感をもって退職勧奨に応じてもらうための方法についてご紹介します。

(1)事前に注意・指導を繰り返し行い、記録を残しておく

退職勧奨の場で初めて問題点を指摘して退職を促しても、納得する社員はまずいないでしょう。これまで注意も指導もされてきていないと、自分に大きな問題があると認識することも、改善するチャンスも与えられなかったことになるためです。そのため、事前に問題点について何度も注意・指導を繰り返しておくことで、会社側が感じている問題点や、それを改善することができなかったことを社員自身に認識させておくことが納得感に繋がります。
(2)金銭的メリットを提示する

退職勧奨においては、会社から金銭的なメリットを提示することも一手です。特に、会社としては退職を促したいところだが解雇は客観的に難しいという場合に、転職活動の準備金として退職金を支給することで納得を得るという方法も効果的です
7.必ず書面を!
退職の合意に至ったときは、必ず覚書や退職届を提出してもらってください。覚書や退職届を取り付けることで、解雇ではなく、協議の上で退職を承諾したことが証拠として残りますので、万が一、後から訴訟を起こされた場合にも有利になります。退職勧奨の進め方や書面の作成に迷った際は遠慮なくブレイン・サプライのコンサルタントにお声掛けください。

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